CBHを進める都市を選定するにあたり、3つの視点(①有名な都市であること、②首長の取り組み意欲が高いこと、③その他のポテンシャルが高いこと)で全国1,700以上ある市町村をレビューし、候補を絞り込みました。

その中で最有力候補となったのは千葉県旭市でした。同市は都心から80km圏内で千葉県北東部に位置し、南部が九十九里浜に面しています。平均気温15℃と温暖な気候で人口は約6万5,000人、農業をはじめ水産業、商業、工業がバランスよく発達しています。

旭市が最有力候補となったのは次の理由からです。

  • 千葉県全体と比較し、旭市の糖尿病診断者の割合が高かったこと。
  • 車社会で歩行歩数が少なく、肥満や生活習慣改善が課題となっていること。
  • 地域の基幹病院である旭中央病院があり、研究に参画できる専門家がいること。また、市民を巻き込んだ糖尿病教室の開催実績があり、医療機関と自治体が協働で取り組みを行える素地があったこと。
  • 政府が推奨する「生涯活躍のまち」の概念を取り入れ、官民連携で「みらいあさひ」という新しい地域づくりに取り組むなど意欲が高かったこと。
  • 複数の政府関係者からも「健康を軸としたまちづくりに非常に熱心」との理由で同市の推薦があったこと。

旭市長からは「将来の旭市を見据え、旭中央病院と連携した多世代交流拠点づくりを推進し、同院での最先端の高度医療、高齢者が健康的に過ごせる施設の整備などにより、旭市の皆さんが安心して暮らせるまちを目指していました。その中で、糖尿病対策を行うCCDに取り組むことで、さらなる安心感の提供につながるのではないか」と期待を寄せていただきました。

同じくパートナーシップ協定を結んだ千葉大学医学部附属病院次世代医療構想センター吉村健佑医師は「当センターには、さまざまな企業からのタイアップ企画が持ち込まれます。その中でもCCDは、グローバル企業が世界中の都市で行っているプログラムであり、信頼と期待ができそうだと感じていました。CCDでの予防的アプローチや行動変容を促すことによって医療提供体制をリバランスし、維持していく取り組みは必要不可欠。当センターとしても次世代医療を考える観点から、ぜひ取り組みたいテーマでした」との声をいただきました。

このような期待を受け、2021年6月、旭市ならびに千葉大学医学部附属病院次世代医療構想センターと「糖尿病対策に関する包括連携協定および共同研究パートナーシップ」を締結、世界38都市目の都市として旭市でのCBHがスタートすることになりました。

CCD旭ではゴール・目的と、プログラム終了の2025年12月までのKPIを、次のように設定しました。

 

ゴール・目的

  • 旭市市民の健康寿命を延伸する
  • 旭市市民が糖尿病発症を予防できる
  • 旭市市民が糖尿病重症化を予防できる

 

KPI

  • 糖尿病有病割合の減少(HbA1c6.5%以上の人が8.5%未満(R1:8.9%)
  • 肥満の人の割合の減少(BMI25.0以上の人が28.0%未満(R1:31.1%)
  • メタボリックシンドローム該当者および予備軍の人の割合の減少(R1:27.2%(予備軍 9.6%、該当者 17.6%))

 

非常にチャレンジングなKPIですが、マイルストーンを1つずつ確実にクリアしていけばゴールに到達できると確信し、ノボ ノルディスク ファーマ (ノボ ノルディスクの日本法人)と旭市、千葉大学医学部附属病院次世代医療構想センターが協働するCCD旭が始まりました。

最初に取り組んだのは、旭市の健康課題の明確化です。千葉大学医学部附属病院次世代医療構想センターが行った定量調査・定性調査で、次のような健康課題が明らかになりました。

 

定量調査:国民健康保険データベースを分析
 

  • 旭市民の健康寿命・平均寿命が、千葉県平均と比較して低い
  • 糖尿病のある人の数が男女ともに増加傾向
  • 糖尿病受診者数が千葉県内の他の市と比べて多い
  • 肥満人口(BMI25以上)が多い

 

定性調査:市民へのヒアリング調査

以下の可能性が示唆された。

  • 車社会のため日常的に運動する環境にない人が多い
  • 大皿で食事を出すため、食事量が多い
  • 糖分摂取量が多い
  • 塩分摂取量が多い
  • 第一次産業に従事し不規則な食生活の人が多い
  • 車メインの道路が多く、歩道が散歩に向いていない

 

この調査結果に基づき、発症予防と重症化予防の2軸で事業内容を企画立案していくことが決まりました。

糖尿病発症予防では、保健医療の側面からだけではなく、広くまちづくりからのアプローチが必要です。そこで2021年4月、旭市役所に庁内横断プロジェクトチーム「旭市CCDプロジェクト推進チーム」を設置。健康づくり課や保険年金課、企画政策課、都市環境課など多様な課から16人の若手・中堅市職員が集められ、週に半日CCD旭の業務に専念できる体制を構築しました。産官学が協力しながらパイロット事業の企画立案を行っています。

糖尿病発症の大きな要因である肥満に対して、食事面と運動面からアプローチするためのパイロット事業を実施しました。

1. CCDフェスティバル

旭市民の皆さんに健康的な食事と適切な運動方法を知ってもらうことを目的に、世界糖尿病デー(11月14日)に合わせて2022年11月13日に開催。延べ250人が参加。

・学校給食弁当の販売

作る側と食べる側双方に、理想的な味の濃さや量を知ってもらうことを目的とし、栄養バランス等、理想的な食事である学校給食をお弁当形式で販売。用意した50食が9分で完売。購入者へのアンケート調査では「今後の食生活を見直しますか」との質問に対し「そう思う」「少しそう思う」と回答した人が78%だった。給食をキーワードにした健康的な食事の提供が効果的であるとの結果を得ることができた。

・体力測定会の実施

体力測定をきっかけに自分自身の現状を把握すれば運動の動機づけになるだろうと、無料の体力測定会を実施。アンケート調査では89%の方が「今後、運動しようと思う」と回答した。自分の体力を知ることが、運動の動機づけに高い効果があることが分かった。

 

2. 市役所から始める健康づくり

市役所職員を対象とした健康的な取り組み。主に行動変容を促す取り組みを実施した。市役所の健康経営を推進するとともに取り組み内容を発信することで、将来的に市内事業所への展開を図る。

・健康宣言

健康に関する目標を他者と共有することで行動変容を図ることが目的。職員の66%がネームプレートに健康目標を書いて他者と共有した。アンケート調査では、94%が「目標を達成できた」もしくは「目標には届かなかったが何かしら取り組んだ」と回答。目標を立てることが行動変容につながるという結果が得られた。

・ながら運動推進

エレベーター前から階段にかけて足跡シールを貼り、階段利用を促進。職員の77%が「いつも階段を利用している」「足跡シールを見て利用するようになった」と回答した。また、バランスボールに座りながら仕事できるよう、希望者にバランスボールを配布した。

・ヘルシー弁当の開発

揚げ物など、多くの人が好む食事の見た目は茶色いことに着目し、見た目は茶色だが、低カロリーで「罪悪感」なく健康的な食事ができるお弁当を、旭中央病院と協力し開発。職員を対象に2回の試食会を実施した。

 

3. 市長と歩こう

歩き方コンサルタントを講師に招き、市長が率先して運動に取り組む様子を広くPRするとともに、市民の健康意識向上を図るためウォーキング教室を開催。多くの市民が参加し、イベント後の意識調査では、89%の方が「意識が変わった」と回答した。

介入場所(①個人・家庭、②事業所等、③まち全体)をより明確にした上で企画立案しています。イベント形式の場合、ある程度健康意識の高い方にはアプローチできますが、普段あまり健康を意識されていない方は、どうしてもイベントへの参加率が低くなります。そういった方々でも、日常生活の中で自然と健康的な行動を取れるようにするための仕掛けづくりを進めています。

 

1. 個人・家庭

  • 食品売り場で健康的な食材を自然と手に取れるようなポップやレシピの設置、陳列方法の提案・実践
  • 外食時に健康的な食事を提供している飲食店を選択しやすいよう、千葉県が野菜や減塩に取り組んでいる飲食店を認証する「やさ・しー・い食の応援店」制度の活用
  • さまざまな場所に、視覚によって無意識に体を動かしてしまう仕掛けを設置
  • 旭市公式LINE等を活用した健康情報の発信

 

2.事業所等

  • よく噛むことの定着化のための啓発(糖尿病予防には噛むことが大事であることから、子どものうちから噛むことを習慣化し肥満・糖尿病を予防する目的)
  • 市役所からはじめる健康づくり(市役所内での健康宣言やながら運動などの健康づくりに取り組み、市民への波及効果を狙う)
  • 体力測定(体力を測定することで気づきを与え、運動習慣醸成につなげる)

 

3. まち全体

  • 道の距離表示によるウォーキングルート設定(距離を示すことで歩きやすい、歩きたくなる環境づくり)
  • ウォーキングマップ作成
  • スポーツ施設の指定管理者による健康イベントの開催
  • 自分の絵・名前入り歩道プレートの設置
  • 指定管理者との連携

切れ目のない支援体制の構築と連携強化のため、2022年12月「旭市糖尿病対策地域連絡会」を発足しました。年に2回、旭市役所の健康づくり課や旭中央病院、地域の医師、歯科医師、薬剤師など糖尿病治療に携わる関係者が集まり、課題の抽出とアクションプランの検討を行っています。

 

現状の課題

  • 糖尿病の栄養指導内容や資材が統一されていない
  • 糖尿病性腎症の重症化予防プログラムの周知不足

 

アクションプラン

  • 栄養指導共通パンフレットの開発
  • 健診での1日推定塩分摂取量の調査研究
  • 糖尿病連携手帳を活用し、糖尿病性腎症に対する連携強化

旭市長のリーダーシップのもと、縦割りになりがちな部署の壁を超えて全庁横断的に糖尿病発症予防に取り組むためのチーム「旭市CCDプロジェクト推進チーム」が設置されたことは、CCD旭のユニークな点です。また、多職種連携による糖尿病重症化予防を継続する仕組みである「旭市糖尿病対策地域連絡会」が発足できたことは、今後の旭市の大きな強みになると考えています。

特に「旭市CCDプロジェクト推進チーム」には、普段健康に関する取り組みを行わない課の方も参画しています。例えば土木部門で「公園をどう作るか」「道路をどう作るか」と考える際、CCD旭に関わっていた職員がいることで、健康を軸とした公園づくり・道路づくりが行われる可能性が高まります。このようにCCD旭に関わった職員が庁内に点在することで、旭市のあらゆる行政分野において健康を意識した政策が展開されていくと考えています。これはWHOが提唱する「Health in All Policies(全ての政策に健康の視点を取り入れる)」の概念にも通じます。だからこそ、CCD旭終了後までを見据えたプロジェクトを推進できていることは、CCD旭のユニークな点であるとともに、旭市にも良い影響を及ぼすことができるのではないかと考えています。

2021年6月にCCD旭がスタートし、2年以上が経過しました。これまでの成果ついて、ノボ ノルディスク ファーマの医療政策・渉外本部長のサイモン コリアは「これまでに取り組んできた活動数がすでに多く、また幅広い側面からアプローチしている点で、期待を超えている」としています。

また、千葉大学医学部附属病院 次世代医療構想センター センター長/特任教授の吉村健佑医師は「施策としてはまだこれからの部分も多いですが、産官学連携でそれぞれの立場の違いがありながら信頼関係を構築し、プロジェクト終了後も継続できるような枠組みづくりができたことは大きな成果」と評価されています。

旭市長は「若手・中堅職員ののびのびとした発想や、所属課の業務を抱える傍ら、意欲的に企画立案に参加する姿勢は非常に嬉しく、頼もしく感じています。行政以外の分野の方々と一緒に取り組むCCD旭の活動過程を通じて、あらゆる面でより高度な職員の人材育成が図られている」と、市職員の育成にもつながっていると評価していただきました。

CCD旭が終了するのは2025年12月。残りの期間で行いたい取り組みとしては、主に次のことを挙げています。

 

・糖尿病性腎症の連携課題を解消

2022年12月に「旭市糖尿病対策地域連絡会」を発足し、課題の共有とアクションプランの検討を進めている。特に糖尿病性腎症の連携に関しての課題が多くあるので、地域に応じた改善を進めていきます。

 

・官民連携の促進

まずは糖尿病発症予防の取り組みについての認知度向上に努めるとともに、行政のマンパワーだけでは取り組めないことでも、官民連携での事業立案を促進することで、発症予防に関する市民サービスの量と質の向上を目指しています。

 

・塩分摂取量調査

2023年度から国保特定健診・後期高齢者健診の受診者を対象に世代別、性別で塩分摂取量を尿検査から推定し、データ収集を開始。その結果を全国平均と比較した上で、旭市市民の塩分摂取量を推定し地域での健康施策に生かすとともに、個人の塩分摂取量を知ってもらうことで減塩を促していきます。

 

・CCD旭終了後も継続できる仕組みづくり

糖尿病発症予防に関する政策を旭市の最上位計画である旭市総合戦略に位置づけることで、継続して健康的な政策立案がなされるようアプローチしています。

 

CCD旭終了後を見据えているのは、ノボ ノルディスク ファーマが取り組み内容を決定・実行し成果を出すだけでは、旭市の健康課題改善が一時的になってしまうからです。とりわけ発症予防は、アウトカムが出るまでに時間がかかります。そのため、旭市の方々が中心となってCCD旭で培ったものを継続できるようにするために、旭市役所に庁内横断プロジェクトチーム「旭市CCDプロジェクト推進チーム」の立ち上げなど、継続できるシステムづくりに注力しています。その方が長い目で見たときに、本質的な変化が起こると考えています。

「CCD旭終了後も、このプロジェクトで得られた知見を活用しながら、“チーム旭・オール旭”で市民の糖尿病対策、ひいては市民の健康増進がより一層図られ、CCD旭の最終目標である『自然に健康になれるまち』の実現を期待しております。さらには、旭市での糖尿病発症予防や重症化予防への取り組みを世界へ発信し、世界中の人々の健康づくりに貢献していきたいと思っております」(千葉県旭市長 米本弥一郎)

郡山市国民健康保険被保険者データ

「国や都道府県が旗振り役となり医療費適正化や健康寿命の延伸を提唱することは、非常に簡単です。しかし実際に、市町村が市民に直接介入し行動変容を求めることは極めてハードルの高いこと。それを私たちは、今まさに痛感しているところです。地域住民が何世代にも渡って続けてきた食習慣をはじめとする文化・風習を、たった3〜4年で変えることはできません。この壁を突破するには、具体的な事例を作るしかないと思います。ですから、CCD旭では『旭市ではこのようなアプローチで行動変容できた』と、短い言葉で言い表せるモデルを作り、世の中に示していかなければならないと考えています」(千葉大学医学部附属病院 次世代医療構想センター センター長/特任教授 吉村健佑)

郡山市国民健康保険被保険者データ

CBHを展開している他の都市は、ローマやベルリン、ヒューストンのように大規模で有名な都市ばかりです。一方の旭市は、人口が6万5,000人とCBH都市の中では比較的規模の小さい都市です。こういった小規模な都市でもしっかりCBHを進めることで、地域の皆さんの健康に寄与できることを示していきたいと考えています。旭市は地域の集まりが多く、地域のつながりが強いことが伺えます。社会的なつながりが強いと健康にプラスの効果があると言われており、そのような環境がある旭市では、今後さらに成果が出てくるのではないかと期待しています。

そして、旭市での学びを他の大都市が学んでいく。そのような未来を思い描きながら、今後もCCD旭を進めていきます。