社長対談 駐日デンマーク王国大使 フレディ スヴェイネ

 

Photograph : Masato Kato

今年は、デンマークと日本の外交関係樹立150周年となった記念すべき年ですね。

はい、ロイヤルファミリーが互いに相手国を訪問するなど、両国の絆の深さを再確認し、互いをよりよく知るためのイベントがめじろ押しの一年となっています。

日本の方にデンマークを知っていただくためのキーワードとして、「世界一幸福な国」があります。実際、なぜデンマークが何度も世界幸福度ランキングでトップになっているのかとよく聞かれます。それについてはこれからベックさんとお話しできればと思いますが、デンマークが「世界一幸福な国」と言われているからといって、デンマーク人の考え方や社会の仕組みをそのまま日本に取り入れる必要はないと私は思っています。日本は日本が大事にしたいものを軸として幸せを追求するのがいいはずです。その過程でデンマーク流の幸せがなんらかのヒントになってくれたら、とてもうれしいですね。

おっしゃる通りですね。デンマークの幸せの理由は、教育、ヘルスケアなどの社会福祉やワークライフバランスなどさまざまな面から語られますが、スヴェイネ大使はどのようにお考えですか?

私は、意思決定においてコンセンサスを重視する社会が、デンマーク流の幸福の基盤になっていると考えています。

なるほど。私は日本に来てから、日本社会も、人々の同意をとても大事にする社会であると学びました。両国の間には何か共通する部分がありますね。ただ、同じく私の経験によれば、目指すものは同じでも、コンセンサスを目指す方法は違うかもしれません。

デンマークにおいてコンセンサスを重視する社会が機能するのは、ものごとを決めるときに全員が議論に参加するからだと思います。私たちは幼稚園生ぐらいの幼いころから、ある議題に賛成であろうと反対であろうと、関心があろうとなかろうと、自分の意見を持ち、表明することを求められます。皆で行う決断のプロセスに、自分も一人の重要な主体として参加することを教えられますよね。

それに加えて、デンマークでは人と人の関係がフラットです。大使だから偉い、社長だから偉いという考え方はせず、誰もが対等に自分の意見を言いますし、上に立つ人も、自分たちとは異なる視点の見方も含め、できるだけ部下から意見を聞いてものごとを決めるのを好みますね。

日本では、「大使は偉い人」という意識があるためか、会議などで私が口火を切ってしまうと異論がなかなか出されない傾向があります。でも私は反対意見も聞きたいし、全員に意思決定に参加してもらいたい。そこで私は、ふつうとは違った方法を始めました。会議の直前に突然、メンバーの一人を呼んで、「今日の会議の議題は僕からではなく、あなたから出席者に説明してほしい」と振るんです。そうすると、指名された人にとっては、会議が「大使から説明を受ける場所」ではなくなり、自分が主体となって動かすプロセスに変わる。ほかの人も、いつその役割が自分に振られるかわからないので、毎回の会議への臨み方が変わってくるのです。

それは非常にいい方法ですね。私は日本支社の会議でもデンマーク人を相手にしているときと同じように、ほかの人が発言しない限りひたすら話し続けてしまっていたのですが、赴任して1年半たった今では、自分や誰かの発言のあとに沈黙があっても「意見がないのだろう」と決めつけず、10秒待つことを自分に課しています。日本の人々は、話し出すのに少し時間がかかることが多いですからね。

それもいいですね! また、デンマークでは権力者をより重要な人物と考えることはないけれど、政府や政治家に対する人々の信頼感は非常に高い。リーダーに対する信頼も、デンマークの幸福度の高さに貢献していると思います。

私も、デンマークがコンセンサスを大事にする平等な社会であることが、その背景にあると思います。政治的なプロセスにおいても、水面下で誰かが決めるのではなくオープンな場所で率直に、対等に議論が行われる。この透明性が政府への信頼感を生んでいるのでしょう。

汚職がないことも政治への信頼感のベースにありますね。デンマークは汚職の少ない国のリストにおいて、常に世界のトップクラスですから。

そうですね。政治の世界に限らず、ノボ ノルディスクでも同じです。ノボ ノルディスクは世界中で事業を展開していますが、常に正しい形で社会とも、社員とも関わっていきたいと考えています。そこで妥協をして倫理に反することをするくらいなら、その国でのビジネスを失ったほうがいい。なぜなら、私たちは自社の経済的な成長だけではなく、糖尿病、成長障害、血友病の患者さんのためになることも目的にしているからです。ビジネス上の目的を達成するためだけでなく、個々人の幸せに貢献するために頑張っています。

御社は患者だけでなく、糖尿病のリスクのある人たちへもケアの手を差し伸べています。自社と社会の共通のプラットホームを作り、糖尿病を予防し、糖尿病の人々のより健康的な人生のために、ともに進もうという哲学で事業をされていますね。

たいていのデンマーク人は、仮に自分一人が良くても、周りの人が不幸せだったら自分は幸せにはなれないと考えます。ノボ ノルディスクは、デンマークに本拠地を置く企業として、極めてデンマークらしい価値観で経営されています。

たしかに、「社会全体で幸せとなる方法を探ろう」というマインドがデンマークの価値観の中心にあります。

デンマークでは女性の就業率が高く、家庭内でも夫婦が対等な関係を築いていますよね。それは、人口の半分を占める女性が幸せでなかったら社会としては幸せでなく、それでは結局男性も幸せになれないという考えのもとに、女性だけでなく男性も、男女が平等な社会を目指してきたからだと私は思います。

そうですね。個人の成功より社会の幸せを目指すデンマークには、「一獲千金」のような、いわゆるアメリカンドリームはないかもしれません。しかしその代わりに、デンマーク流の幸せ、「デニッシュハピネス」があります。

そして日本には、周囲との調和を大事にするマインド、他者への思いやりなど、デンマークの価値観とも重なる部分が多々ありますね。

両国は何千キロも離れているにもかかわらず、共通の価値観を持っています。だからこそ、お互いに学び合えるものがたくさんある。幸い、今年は両国にとってメモリアルイヤーですので、その機会を提供するイベントが多数開催されています。

デンマークでも、日本のアートや建築、工芸にフォーカスした展覧会が開かれるなど、日本の文化やライフスタイルを学ぶことのできるイベントがたくさん行われていますね。

私が日本で大変楽しみにしている行事の一つは、ノボ ノルディスクさんと、同じくデンマーク企業であるECCOさんとともに開催する「DENMARK フェス&ウォーカソン」です。

10月7〜8日の2日間、東京都江東区の豊洲公園で開催します。この2日間、デンマークの文化やライフスタイルをさまざまなイベントで分かち合い、デンマークの幸せの源泉を感じていただくイベントにしたいと思っています。

2日目のウォーカソン (ウォーキングとマラソンを合わせた造語) では、私もはりきって歩きますよ!

ウォーキングは糖尿病対策に欠かせない運動療法の一つですし、ノボ ノルディスクとしてはこのイベントに、ウォーキングを通して多くの人に健康的で幸せな生活を送っていただきたいという願いをこめています。体を動かすと、脳内にエンドルフィンという幸福感を強める物質を分泌されます。ぜひ、参加された皆さまにデンマーク流の幸せを味わっていただけたら。

デンマークと日本で多様なハピネスをシェアする2日間となるでしょう。イベントで多くの方とお会いできるのを楽しみにしています。

 (構成 江口絵理) 

※この記事は、2017年取材当時の情報です。

駐日デンマーク王国大使 フレディ スヴェイネ

ノボ ノルディスク ファーマ株式会社 代表取締役社長 オーレ ムルスコウ ベック