患者による自主的な勉強会で自ら人生を切り開く人を増やしたい
審査員 大谷敏代さん
「“生きていること”、そして将来のことを考えなさい」と言われたのは、私が10代のときでした。その頃の小児糖尿病患者は私を含めて、自分は20歳まで生きていないだろうと思っている子が多かったんです。だから丸山博先生(当時、東京大学医学部付属病院勤務)が主催するサマーキャンプに参加して、この言葉をいただいたことは強烈に印象に残っています。
その数年後、私は先生や仲間と共に、「女子医大ヤングの会」という主に1型の若い糖尿病患者が集まる会を作りました。勉強会やクリスマス会を開き、患者同士の交流を深め、情報交換をする会です。勉強会を設けたのはこれ以上悪くなる人を見たくないという思いから。子供の頃から、私より若い子が糖尿病やほかの難病で次々と病院で亡くなる様子を目の当たりにしていたので、くやしかったし、悲しかったんです。
今年に入ってからは、東京女子医大の患者会「あけぼの会」の会長に就任しました。会の発足当時から行われている食事会では栄養士さんから説明を受けつつ、塩分、脂質などを計った低カロリーのメニューを舌で味わいながら勉強します。普段いかに不摂生な食事を摂っているか実感できると思います。
やはり一番恐いのは「無知であること」。たとえば、合併症にしても、目の失明には誰もが注意を払いますが、そっと忍び寄ってくる神経障害には気を配らないケースが少なくありません。でも、気をつけないと痛みさえも感じなくなることがあり、胃腸障害やら何やらが起こってきます。自分の体のことなのに知らないのは情けないですよね。「情報ならいくらでもインターネットや書物にあるじゃない」という人がいますが、いくら情報があふれていても、実際は見るだけで吸収しない人が多いんです。だから患者が自主的に集まる勉強会の意義は大きいと思います。私たちが後輩にあたる患者さんに、糖尿病に関する新しい情報を伝えることは務めだと考えています。また、会の交流から同じ悩みを持つ患者同士が愚痴をこぼし合える仲になれるのもメリットのひとつでしょう。
いま特に心配なのは、世の中に隠れている2型の子供の患者さんです。2型は遺伝の傾向が強いので、祖父母が糖尿病だった場合、家族が子供の食生活に無関心だったり、学校の検査で糖尿病が見つかっても放置していたりすると、かなり悪化してから病院に連れていくことになるのです。本来はこうした子供たちの親にこそ勉強会に来てもらいたいのですが。
こういう慢性疾患は「本人が主治医」。難しいですが、人間的に強くならないと! 誰かを頼るのではなく、腹を据えて、自分自身で環境も肉体も変えていかなければならないと思います。
今回の応募作品を読んで、特に印象的だったのは、教え子が糖尿病という中学校の先生の作品。凛とした姿で生きる生徒の気持ちをしっかりと受け止めた先生は素晴らしいと感じました。また、旧ソビエト地域・ウズベキスタン在住の友人のために、募金を募り日本に呼んで治療するよう働きかけた女性の文章もぐっと胸にくるものがありました。今後その友人も周囲の人も誰かを助けようと自然に思うはず。こうした行為は回りまわって自分に返ってくるでしょうし、大勢の人を救うことにつながるはずです。この行動力に感動しました。
プロフィール
幼少の頃、糖尿病を発症。若い糖尿病患者同士が交流を深める「女子医大ヤングの会」(www.dm-net.co.jp/young/joshii/joshii.htm)を創設し、代表を務める。この会はボランティアによるカジュアルな集まりで、会則などはなし。現在まで20数年続いている。建築学校卒業後、設計事務所、住宅メーカー数社に勤務。一級建築士の資格を取得する。47歳で結婚し、現在専業主婦。今年から、東京女子医科大学の患者会「あけぼの会」会長に就任。
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