世界的な糖尿病ケアのリーディングカンパニー、ノボ ノルディスク ファーマ株式会社   ノボ ノルディスク ファーマ株式会社 ノボ ノルディスク ファーマ株式会社
 
検索
 検索
印刷

糖尿病と私


宮城県 松本美佐子さん

「では、お聞きします。糖尿病の食事療法を長続きさせるコツは何だと思いますか」
病院の採用面接試験で、看護部長にそう聞かれ、私は胸を張って言いました。
「はい。良いダシを使うことです。手間とお金をかけるなら、ダシだと思います。そして、おいしい食事をおいしく頂くことです」
わずかな沈黙の後、くすくすと笑った看護部長。この後、私は晴れて内科勤務のナースになる事が出来ました。

今思うと、私と糖尿病との出会いは二十歳になる前にやってみたダイエットです。ひょんなことから始めたダイエットが今の私の幸せをもたらしました。
身長が百五十二センチしかないのに、体重が六十キロ以上。主食がパフェなんて日もあった私が成人式の前に何とか痩せたいものだと考えていると、『健康に痩せたいなら食品交換表を使うといい』と知人がアドバイスをくれました。それで、ちょっと面倒くさいカロリー計算なんかにも挑戦しました。
それまで知らなかったけど、ダイエットって『痩せる』ことじゃなくて、きちんと適正量をとる『食事療法』という意味なんですね。おかげさまで一年間で十五キロの減量に成功しました。年頃の女性の十五キロは魔法です。身体は軽くて調子がいいし、おしゃれする時も、うきうきしていい気分です。食材や、食べる量、時間にもこだわりを持つ事で自分と、自分の生活スタイルに自信を持つ事ができるようになりました。

そんな私にもある時、彼氏が出来ました。なんという皮肉でしょう。彼は糖尿病でした。そして、インスリン注射という薬物療法までおまけでついてきました。
私は焦りました。彼女として、彼においしいけれども低カロリーの料理を作り、『貴方のために作ったの』などと言って、彼の心をわしづかみにしたい、という願望があったのです。そして、ナースの視点から食事療法について色々教えてあげる、素敵な彼女になりたかった。しかし、料理の腕は彼の方が上でした。
「この料理、カロリーとか考えて作ってみたんだけど、どうかな」なんて言われてしまい、味も凄く良かったのです。

食事療法をマスターしている万能と思われた彼でしたが、薬物療法の対象になってしまいました。インスリン注射ってすごいです。その即効性も。血糖はたちまちコントロールされました。しかし、彼にとって自己注射は大変なストレスでした。たとえば、デートして、外食するときは熱々の食事が運ばれてくると、彼は席を立ち、人目を気にしてトイレで自分で注射を打つのです。戻って席につくころには、食事は冷め始めていて、お皿に手を付けずに待っている私に、彼はとても申し訳なさそうな顔をするのです。
(今こそチャンス到来)私は、彼には悪いけれど、そう感じました。そこで次のデートのとき、
「私、猫舌だから、待つのは苦じゃないの。でも注射、今日は私が打ってあげる。カーテンの陰で、さっと済ませましょうよ」

それからは、お互いのお皿から、食品交換して食べたり、おしゃべりして、工夫もして、メインディッシュやデザートは残したりして食事をしました。やっと彼の役に立てたという喜びと、二人の仲が深まったという高揚感で、思い出に残る楽しいデートでした。
糖尿病。最初はほとんど症状もないのに、放っておくと、いくつもの合併症がおこってしまいます。その合併症という漠然とした不安から逃れる事は出来ません。患者となったその時から、楽しいはずの食事は、日に何度も直面する治療課題となり、毎日、自分で自分に針を刺す行為を治療として受け入れなければなりません。それなのに、一生懸命自己管理しても、完治する病気でもない。
私は糖尿病と関わる事で自分の体型、生活や、考え方も大きく変えてきました。でも、一番の変化は、相手を思う心が芽生えて、それを実践しているという充実感を持って生活していることです。

糖尿病は恐ろしい病気ですが、その病気のために開発された治療法や治療薬、機器は病気じゃなくても、参考になるものばかりです。これらの医療の発展を私たち、一人一人が関心を持ち、支持していくことで、いつか糖尿病が、完治する病気に変わっていったらいいなと思います。だって、皆、病気になってつまずいたって、いつかは立ち直って、前向きに生きていきたいと望んでいるのですから。


糖尿病エッセイ大賞 トップページに戻る