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10万分の1の確率の出逢い


群馬県 新井和人さん

彼に出逢わなければ知らなかった言葉がある。「1型」という糖尿病を分類する言葉。ただインスリンを打っているだけなのに、あたかも特別な行為をしているように人々は好奇の眼で彼を見る。そういう私もその中の一人であった。初めは何をしているのかわからなかった。食事前に、いきなりお腹に何かを施している。彼は気にした素振りも見せず、「インスリンっていう血糖を下げる薬を打ってるんよ」
「インスリン?何それ?注射?痛くないの?」「全然痛くないよ。食事前と寝る前に打つんよ。俺、1型糖尿病っていう病気なんよ」

それから私は彼を質問攻めにした。彼の気持ちも考えずに。しかし、彼はそんな私に丁寧に「1型」糖尿病について教えてくれた。何度も何度も他の人にも同じことを説明したのだろう。手馴れた説明でとても分かりやすかったのを覚えている。同年代の友人でこういった「1型」と呼ばれる糖尿病を発症している人に初めて出逢った。いや、「1型」糖尿病を発症した人に初めて出逢ったのだ。彼に出逢う以前は糖尿病というのは、太った中年がなる病気だと思っていた。しかし、こんな身近に糖尿病と呼ばれる病気を患っている人に逢うとは思いもよらないことであった。

それから、普通に彼と付き合っていく中で、初めて低血糖を目の当たりにした。いきなり、彼が私にコーラを買ってきてと頼んできた。聞けば低血糖だという。私は走ってコーラを買い、彼が自分でコーラの蓋を開けることが出来ない為、蓋を開けて渡した。すると、500mlのコーラを一口で飲み干した。10分もすると何事もなかったかのように笑っている。その時感じたのが、「1型」って大層な名前が付いているが、普通だ。ということである。確かに長期的に見て、血糖コントロールが悪かったりすると合併症の危険性もある。女性は妊娠、出産で大変苦労すると聞く。私の「1型」に対する考えが甘いと言われるかもしれないが、インスリンを打ち、低血糖になったらコーラを飲む。ただそれだけのことなんだと。

私は彼に出会い、初めて「1型」糖尿病を知った。「1型」の発症率は10万人に1人だという。その10万人のうちの1人にさえ出会わない人は「1型」という言葉さえ知らないままなのだ。そういった病気を発症した人達の事を知らないまま一生を過ごす。現在、まだ「1型」糖尿病について世間の認知度は低すぎる。学校でのイジメ。子供のすることだからといって簡単に許すことは出来ない。また、就職差別を受けるのも意味不明である。確かに、低血糖などの部分を考えると、飛行機のパイロットや、運転手などは避けなければいけないかもしれない。ただ、私は彼と接してきた中で一つ確信したことがある。「1型」と呼ばれる人達には何か共通する一本まっすぐな筋の通った信念が心の中に存在している。それは、なんだろうか。「1型」を発症してから、今までの苦労、様々な想い、周囲の目。そういった様々なことを乗り越えて来た人たちだからこそ、持っているもの。まだ、乗り越えている最中の人もいるだろう。どうしても乗り越えることが出来ず、苦しんでいる人達もいるだろう。そういった人たちに健常者と患者といった関係ではなく、人間と人間といった関係で助け合うことが出来れば最高ではないか。まだまだ、「1型」の認知度が低すぎて、理想までとはいかないが。

それでは、どうすればいいのか。私自身のちっぽけな力では何も変えることは出来ないかもしれない。ただ、普通に接することは出来る。「1型」の彼を最高の友達として誇りに思うことが出来る。まだまだ残っている社会からの差別に対して彼を守ることは出来る。彼を取り巻く環境の中で、彼が「1型」だからといって何かしら不利益を受けていたとしたら、それに向かって一緒に戦うことが出来る。ただ、1人の友達として困っている彼を見過ごすことはしたくない。それが、「1型」だからといったしょうもない理由でならなおさらである。

10万人に1人という確率で発症した彼。その彼に出逢うことが出来て私は本当にラッキーだと思う。うわべだけの付き合いじゃない友達になれた。1本筋の通った人間に出逢うことが出来た。そんな彼が「1型」だからと言って差別を受ける世界は、変わっていかなければいけない。まず第一歩として私に出来ることは、彼と一緒に周りの人を巻き込みながら笑って過ごすことなのかもしれない。


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