患者さんの話
「成人成長ホルモン分泌不全症(AGHD)についてもっと多くの方に知っていただきたいですね。」 I さん(東京都) ノボ ノルディスク ファーマ株式会社では2009年12月、AGHDの治療をされている患者さんの声を聞こうと社員のための会を開催しました。この内容はご自身の体験をお話いた だいたIさんに許可をいただき掲載するものです。 -最初はどのようなきっかけから受診されたのでしょうか? 私の病気は下垂体のホルモン欠乏症です。18年前、二人目の子どもを出産する直前に自宅で大量出血して、すぐに近くの病院に行って帝王切開で出産しました。その際、体がショックを起こして徐々に内臓の働きが止まってきてしまい、救急車で運ばれ、それ以来ずっと東大病院で診てもらっています。 心臓以外の内臓の働きが完全に止まってしまい、肺水腫になりました。更に出血による虚血でホルモンを作る下垂体というものが壊死してしまいました。これが後遺症となって現在も治療を受けています。体のすべての機能が低下していて、その当時は毎日、体がだるくて病院から帰っては寝て、食事を作っては寝てと、ことあるごとに横にならざるを得ない生活でした。 尿を司るホルモンもありませんから、お手洗いに行く回数が非常に増え、夜中も熟睡できませんでした。集中力も体力もなくなってしまい、QOLもとても低い状況でした。 -ホルモンの補充療法はいつごろから始められたのでしょうか? ホルモンの補充は入院している段階からしていましたが、成長ホルモンに関しては2005年から治療を受けさせていただいております。 -成長ホルモン治療を開始するにあたって不安だったことはありましたか? 主治医の高野先生からは大丈夫と言われていましたが、人工的なホルモン製剤を補充することと、毎日の自己注射に抵抗がありました。また、当時成長ホルモン製剤は高額で保険の適用もなく、医療費の負担も気になりました。
-その後、成長ホルモン治療に対する不安は解消されていますか? 成長ホルモン治療を始めてから1カ月後くらいから胸の周辺が痛くなりましたが、さらに1カ月ほど経つとその痛みも消えました。自己注射にも徐々に慣れて、医療費も保険適用となりましたし、昨年末からは特定疾患医療に助成の恩恵を受けられるようになりました。現在では、すべての不安が解消されたといっていいでしょう。 -成長ホルモン治療の効果の中でもっともうれしく感じたのはどのようなものでしたか? 半年後くらいから効果を実感しはじめました。まず生活に活気が出てきました。気力や集中力、忍耐力もつき、メンタル面でのQOLが向上しました。私の変化について家族から「寝なくなった」「キレなくなった」「顔色がよくなった」「よく食べるようになった」「顔が小さくなった」「髪の毛が増えた」と言われました。私が最もうれしく感じていることの一つは、ここ2、3年でおなかの周りの脂肪が減ったことです。もう一つは、お手洗いに行く回数が減ったこと。今では映画を観に行っても途中で席を立たずに最後まで観られるようになりました。また自分の体力に自信が持てるようになってからは、旅行をはじめ、ハイキングや山登り、スキーと、今では健康な人とほぼ同じ生活ができています。 -AGHDを持つ人は日本に推定3万6千人いて、治療をしている患者さんは2千人に満たないというデータがありますが、そのことについてどのように思われますか? 私自身、QOLの向上を実感していますので、早く治療を受けられて、ご自身の生活を楽しまれたら、すばらしいと思います。先ほどお話した副作用とか自己注射や医療費といった不安はすべて拭われたと思いますから。 -成長ホルモン製剤のメーカーであるノボ ノルディスク ファーマに望むことは何でしょうか? AGHDについて社会で知られていないので、AGHDとその治療に関する啓発活動をしていただきたいですね。それから製剤に関しては、私は今、1本で20日分の製剤を使っているのですが、1泊2日の旅行に携帯できるような常温で保存できる製剤をぜひ開発していただきたいと願っております。 東京大学医学部腎臓内分泌内科 高野幸路先生より 日本では間脳や下垂体の機能障害で1年間に1200人余りの人がAGHDを発症し、現在、全国でその数は3万~3万6千人にのぼると推定されていますが、治療をしている人はまだ1割にも達していないのが実情です。ようやくこの病気の重大さが認められて国から医療費の補助が出るようになりました。成長ホルモン製剤も使いやすくなっていますし、私たち医師も少しほっとしているところです。 成長ホルモン(GH)は成人になっても思春期の半分から3分の1程度分泌されているのですが、成長ホルモンが分泌されなくなると、体脂肪が増え筋肉量や骨量が減少するなどして、易疲労感、うつ状態、集中力やスタミナの低下といった症状が現れてQOLが低下します。AGHDの患者さんに成長ホルモンを補充しないままでいると、頸動脈の壁が厚くなって動脈硬化が進み、脳硬塞や心筋梗塞を引き起こして死亡率が健常人の2倍も高くなるのですが、成長ホルモンを補充すると、生命予後が健常人と変わらなくなることが調査によってわかりました。さらに成長ホルモンそのものに動脈硬化の進展を抑制する働きがあることも判明しました。 成長ホルモンを補充すると、体脂肪量が7~8%減少し、筋肉量が2~3kg増加します、またウエストが締まり、強い骨を作ります。そして易疲労感、うつ状態、集中力やスタミナの低下などの症状が大きく改善され、患者さんのQOLが向上していることも報告されています。成長ホルモン治療をしている患者さんの家族へのアンケート調査でも患者さんの「注意力が増してきた」「活動性が増してきた」「忍耐力がついてきた」「人間関係がうまくいくようになってきた」など改善が認められます。 では、実際に患者さんの体に何が起こっているのでしょうか。今日はIさんにご本人にしかわからない貴重なお話を伺う機会を得まして、私自身にとってもたいへんありがたい、有意義なことだと思っています。 |
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