スポーツでの活躍を通して 糖尿病患者を勇気づける

チーム ノボ ノルディスクCEO、共同創設者 フィル サザーランド

フィル サザーランド氏、オーレ ムルスコウ ベック社長

1型糖尿病患者だけからなるプロサイクリングチーム「チーム ノボ ノルディスク」を創設したフィル サザーランドさんは、糖尿病を患っていても夢をあきらめる必要はないことを自らの活躍を通して示してきました。

糖尿病についてよく知ってもらい、勇気づけることで、患者さんの人生をより良いものにしてもらう−−フィルさんとノボ ノルディスクが挑むミッションについて話しました。

オーレ ムルスコウ ベック(以降、ベック):チーム ノボ ノルディスク(以降、TNN)が、宇都宮で開催される「ジャパンカップサイクルロードレース」に参戦し始めて4回目になりましたね。創設者であるフィルさんが毎回、選手とともに来日してレース会場でチームのプレゼンテーションに登壇したり、多くのメディアに登場されたりすることで、日本で糖尿病の多くの人が「糖尿病があっても世界トップクラスのアスリートになれるんだ」と勇気づけられていると思います。

フィル・サザーランド(以降、フィル):今回は大原慎人くんの存在もたくさんの人々の心を揺さぶったことでしょう。10歳の時に1型糖尿病を発症しながらも、「いつか自分もTNNの選手になる」という夢に向かって本気で頑張っていますね。

ベック:フィルさんも生後わずか7カ月で診断されたんでしたね。それまで糖尿病患者がトップアスリートになった例はなかったでしょうし、激しい運動は良くないと言われることもあったと思います。なのになぜ、フィルさんは自転車レースの選手になる夢を抱くようになったのでしょう?

フィル:幼いころは医師から激しい運動を控えるべきだと言われていましたが、母も僕も、ちゃんと血糖をコントロールしていれば、むしろ体を動かしたほうがいいと感じていたんです。そして12歳のある日、僕はテレビで見たツールドフランスに「なんてかっこいいんだ!」とほれこんでしまって。

ベック:選手として活躍していた学生時代に、同じく1型糖尿病を持っていながら血糖コントロールをほとんどしていなかった選手に助言をしたことがきっかけとなって、糖尿病をめぐる環境や人々の意識を変える活動へと踏み出されたそうですね。

フィル:レースに出ることにも、糖尿病の人を助けることにもやりがいを感じたんです。ならばこの2つを組み合わせよう、と。糖尿病を持つ選手を集めてチームを作り、アメリカ横断レースに出場して、2度目には優勝しました。

ベック:糖尿病啓発のためのチャリティとしてではなく、結果を出すことにこだわったのですね?

フィル:ええ、最初から優勝するつもりで参戦していました。なぜなら、僕たちが適切な血糖コントロールをしながら世界トップクラスのレースで結果を出せば、糖尿病だからといって糖尿病のことだけ考えて生きる必要などなく、人生において夢を追求できること、そしてそのために必要なのは日々の小さな調整にすぎないということを多くの人にわかってもらえるからです。

ベック:まさにそのビジョンこそ、後にノボ ノルディスクがフィルさんのチームを支援したいと申し出た一番の理由だと思います。ノボ ノルディスクはそれまでもずっと、Changing Diabetes®(糖尿病を克服する)というスローガンを掲げて患者さん・ご家族へのサポートや社会に対して糖尿病の啓発活動を行なってきました。フィルさんがチームの活動を通じて訴えようとしていることと、当社が目指しているゴールは完全に一致しています。その上、私たちの活動はどうしても人数の多い2型糖尿病の方に向けたものが多くなりがちではありましたが、フィルさんたちの活動は1型の方々への力強いサポートとなる。両者の活動が合わさった今、より広い範囲で患者さんやご家族を支援でき、より効果的に社会に訴えることができているように思います。

フィル:もはや、TNNとノボ ノルディスクは一つのチームなんですよね。お互い、相手がいるからこそ大きな力を発揮できる。この結び付きはいわゆるスポンサー契約ではなく、長期的な「パートナーシップ」だと思います。

 

ノボ ノルディスクの経営に学んだ サステナブルなチームマネジメント

 

フィル:TNNにとっては、世界的に高く評価されているノボ ノルディスクの経営スタイルをチーム運営に取り入れられたことも大きな利点でした。ノボ ノルディスクの経営の特徴は目先のことにとらわれすぎない長期的な戦略ですよね。

ベック:ええ、サステナビリティの追求はノボ ノルディスクの経営の根幹をなしています。

フィル:TNNがチームとしてサステナブルであるためには、今活躍できる選手の受け皿となるだけでなく、これからの入ってくる若い選手を育成していかなければなりません。そこで僕たちは若手選手の育成プログラムを作りました。毎年夏にキャンプを開催し、才能を持ち本気で選手を目指している若者にはアメリカでトライアウトに参加してもらいます。今、ジュニアチームには10人の選手が所属しています。

ベック:トップクラスの選手になるには子どものころからのトレーニングが必要ですから、TNNが強くなっていくためにも長期的な選手の育成は重要ですね。

フィル:その通りです。また、ジュニアチームの存在は、「自分も選手になれるかも」と夢見る次の世代を勇気づける役割も果たしています。仮に自転車選手にならなくても、自分たちはどんな夢でも追っていけるんだと知ってもらえたらと思っています。

フィル サザーランド氏とオーレ ムルスコウ ベック

 

僕たちが手に入れた 「運動」という薬の効果を知ってほしい

 

フィル:僕たちは「Changing Diabetes®」というメッセージをユニホームに付けて、多くの人が観戦するレースを走ります。観戦している人はその時には自分に結び付かなくても、もし後に自分自身や家族、友人が糖尿病になった時に「そういえば糖尿病患者の自転車チームがあったな」と思い出して、ネットで調べてみるかもしれません。その時きっと、糖尿病が人生の終わりなどではないことに気づいてくれるはずです。僕たちがレースで走ることがそのきっかけになってくれたらと思っているんです。

ベック:私は、自分の子が糖尿病と診断されて恐怖にさいなまれている親御さんから相談を受けると「糖尿病というのは深刻な病気ではあるが、そこまで悲観することはない」と伝えたくてTNNの皆さんのことを話します。それで勇気づけられたという方からお礼の手紙をもらったこともあります。このような時、私も当社の仕事にあらためて意味を感じることができます。フィルさんのおかげです。

フィル:ありがとうございます。でも僕も、レース前日のイベント「バイクチャレンジto宇都宮」で、社員の方々が、患者さんや僕たちと一緒に東京から宇都宮までの約130kmを自転車で走ってくれたことに感激しました。中にはバックオフィスの社員など、糖尿病ケアとは直接のつながりがない仕事の人もいたはずですよね。

ベック:こうした活動に参加し、糖尿病を持つ方々とともに過ごすと、直接的に仕事で糖尿病に関わる社員もそうでない社員も、糖尿病とともに生きるとはどういうことかをより深く理解することができます。そして自分たちの仕事が糖尿病の方々の役に立っているし、もっと立ちたいと思える。ノボ ノルディスクは社員が仕事にやりがいを感じられるようにすることも企業として重要な使命だと考えているんです。最後になりますが、フィルさん、これからの夢を教えてくださいますか?

フィル:もちろん、TNNとしてツールドフランスに出ることです! そしてもう一つは2型糖尿病の方を勇気づけ、啓発する活動にも力を入れたいと考えています。僕たちが手に入れた「運動」という非常に有効な薬の効果をより多くの人に知ってほしい。この薬にはお金はかかりません。投資するのは自分の時間だけです。糖尿病のために人生を費やすのではなく、自分のやりたいことに目を向け、人生を長く楽しんでほしいと伝えたいんです。

ベック:おっしゃる通りですね。私たちもより良い薬やテクノロジーを開発し、血糖コントロールや運動の必要性、合併症の危険性に関する知識を広め、糖尿病を持つ方々を支えていきたいと思っています。これからもどうぞよろしくお願いします。

(構成 江口絵理/撮影 加藤昌人)

チーム ノボ ノルディスクCEO、共同創設者 フィル サザーランド

フィル サザーランド

チーム ノボ ノルディスクCEO、共同創立者。
1982年、アメリカ生まれ。生後7カ月で1型糖尿病を発症。12歳で自転車競技を始め、ジュニア大会で活躍。2005年に1型糖尿病患者選手も加入できるサイクリングチームを設立し、レースへの参加に加え糖尿病啓発活動も実施し、2009年にはアメリカ横断レース優勝。2012年にノボ ノルディスクと世界初の全員が糖尿病患者からなる「チーム ノボ ノルディスク」を創設。同チームは世界各地のロードレースに参戦している

オーレ ムルスコウ ベック

オーレ ムルスコウ ベック

ノボ ノルディスク ファーマ株式会社 代表取締役社長。
1959年、デンマーク生まれ。コペンハーゲン大学医学部卒業、スカンジナビア国際経営研究所MBA取得。オーフス大学薬理学部でのリサーチフェロー、病院でのインターンを経て、1990年にノボ ノルディスクに入社した。 さまざまな領域で数々の役職を歴任し、2016年1月1日より現職

社長対談

一橋大学大学院特任教授 名和高司

時代を先取りしてきた ノボ ノルディスクの経営

駐日デンマーク王国大使 フレディ スヴェイネ

「世界一幸福な国」を支える デンマーク流の経営